日本酒は劣化する?…について


「日本酒って、(一升瓶の)開けたてが一番美味しくて、置いておくと酢になりますよね…」。


??????(笑)


考えてみれば、こういう質問って、結構いろいろな人からされていた気がします。


日本酒は、熟成するのか?劣化するのか?


そもそも、微生物の世界では、スタートラインの「発酵」と「腐敗」の線引きすら曖昧です。誤解されている方も多いのですが、簡単に言えば「人間が食べられて美味しいものは発酵」で、「お腹をこわすのは腐敗」となり、実は微生物の活動にとっては、どちらも大きな違いはありません。微生物が関わっている以上、日本酒の変化、絶えず進み続けるわけです(特に生酒は、微生物の活動を止めたり、雑菌を予防したりという工程を経ていないので)。


そういう意味では、冷蔵庫に入れて、品質の変化を抑えることが安全ではありますが、一方面白いのは「味わいが変化すること=味わいが劣化すること」を意味するわけでもないことです(笑)。
要は、発酵と腐敗の違いと同じように、あくまですべては人間の目線であり、「その変化が美味しい方に進めば熟成」、「その変化が不味い方に進めば劣化」となる訳です。


山廃や生酛といった昔ながらの造りをしたものは、酵母も力強く、結構な確率で落ち着いた旨味のある味わいに変化します。また、アルコールの度数が高ければ高いほど、雑菌(これも人間が飲んで美味しくない味に発酵させる菌という意味ですが、笑)も入りづらい…という側面もあります。


日本酒を多く扱っている飲食店は、必然的に、数多くの一升瓶の日本酒が、開栓後どのように変化していくかを味見してきましたので、何となく「この酒質なら、一週間後は、こんな味わいに変化していくだろうな…」といった予測はありますが、これも、完全に当たるとは限りません。もちろん、いい意味で裏切られることもありますし、どちらにせよ、それが日本酒の大きな魅力の一つであることは間違いありません。


写真は、兵庫の「竹泉」なのですが、実はこの一本、開けたては結構な癖があり(普通は安定した旨さがありますので誤解なきよう、笑)、開栓したまま常温で一年半以上放置していたのですが、数カ月に一度の味見を繰り返し、最近になってやっと、実に個性的な旨さがでてきた一本です。


「とにかく日本酒はすぐに飲み切ります!」という方、もちろん、それが安全ではあるのですが、心と懐と冷蔵庫に余裕があるようでしたら、是非是非、味わいの変化も試してみてはいかがですか?